真の英雄

2009/09/04 22:19


【「世に棲む日日」(司馬遼太郎著)シリーズ(7)】

 「米国へ連れていってもらいたい」との申し出をペリー提督に拒否された吉田松陰は下田奉行所に捕らえられてしまいます。獄に入れられた松陰と金子重之助を訪ねた米国士官へ松陰は漢文を下記のとおり書いた板切れを渡しました。このことが米国側の記録に残っています。「ローマの軍人であり政治家であった硬骨漢カトーの禁欲主義をおもわせるような哲学的諦めをあらわしたすばらしい見本」と賞賛されているのです。

<<英雄もその志を失えば、その行為は悪漢盗賊とみなされる。我等は人前で逮捕され、しばられ、ここで数日間おしこめられている。この村の名主以下はわれわれを軽侮し、悪罵を投げ、虐待することはなはだしい。しかしどう反省しても非難さるべきようなことは何ひとつない。いまこそ、真の英雄かどうかを知るべきときである。五大州をあまねく歩かんとするわが志は、ここに破れた。いまその身を、半間にも及ばぬ檻の中に見出している。この狭さは、食すことに不自由であり、休むことも不可能であり、また眠ることも不可能である」

「しかし」

と、松陰はいう。

「この檻にあっておのれの運命に泣けば、ひとは愚者だとおもうであろう。笑えば悪漢のように見えるであろう。どういう態度もとれない。だから私はただ、沈黙をまもっているだけである」

 松陰は自尊心の強烈な、一種の伊達男なのである。>>

 素晴らしい言葉だと思いますしこの気持ちもよく理解できます。この言葉を「記録しておく必要がある」とした米国艦隊も尊敬に値すると思います。

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