武士は料簡がせまい

2010/02/16 23:09


【「世に棲む日日」(司馬遼太郎著)シリーズ(15)】

 徳川慶勝のために長州処分を立案、遂行していた西郷隆盛に会うことを、白石正一郎が高杉晋作へ勧めた時の一節です。

<<晋作にいわせれば、武士は忠誠心というものの宿命的本質として藩ナショナリズムを背負わされているが、そこへいくと町人は汎日本人的意識で生きている、いま西郷に会えという、あなたが町人だからそれがいえるのである、という。晋作のいうところでは、西郷とその薩摩藩は勝利軍の側にあった。長州は逆に敗者である。敗者たる自分が、勝利者たる西郷に膝を屈して会いにゆけるとおもうか、と晋作はいう。・・・・・・それをきき、白石正一郎が、

「なんとご料簡のせまい」

 というと、晋作は白石正一郎の顔を優しげにのぞきこみ、やがて、この男の特徴的な笑い声をみじかくあげ、

「そのとおりだ、武士は料簡がせまい。しかしこの狭さがあってこそ、主君に忠義などという、町人がきけばばかばかしいかもしれぬことで腹を切り、命も捨てられるのだ。西郷はわしの殿の敵である。その敵に家来たるわしが笑顔で会いにゆけると思うか。西郷に会いにゆかねばならぬ用があるとすれば、それは斬るときだ」

 とからからと笑った>>。

 この物語のように「料簡が狭い」ことを肯定的にとらえる向きにはなかなかお目に掛れません。吉田康人もよく、「料簡が狭い」的なお叱りをいただいたものです。「武士だからか?」と自ら妙に納得し料簡をますます狭くしていきそうです(笑)。
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